温もりの記憶
夢を見た。
道端を一人歩いていた。
どこに向かって歩いていたかはもう覚えていない。
ただ、どう言う訳かかなりウキウキした気分だったのは覚えている。
足取りは軽く、ご機嫌に、今にも軽快なスキップを踏みそうな。
舞い上がり、鼻歌でも歌いながら、足元を見もせずにただ目に染みる青を仰ぎながら都会を行く。
瞳を空色に染めてどこへ行くの?
背後から駆け寄ってきた風に、そう問い掛けられた気さえする。
どこだっていいさ。
心で答えて進み続けた。
目的地が近づく。
視線をいつも見ている正面の位置に戻す。
一番に飛び込んできた景色は、少し遠くで手を振る君。
手を振り返すと同時に、君めがけて思いっきり走り出す。
あの人とこれからどこへ行くの?
目前から耳元へ囁き来る向かい風を肩で切りながら。
どこだっていいさ。
風に、ひっそり一言呟いて君の待つ場所へと急ぐ。
たどり着いて何気ない会話を交わしながら、どちらからとも無く、手を繋ぐ。
求めていた、そこにあって当然の温もり。
「どこへ行こうか?天気がいいから、散歩しても気持ちいいかも。」
君が聞く。
もちろん、答える言葉は決まっていた。
「どこだっていいさ。」
君が居れば、と付け加えようとしたけれど、何だか照れくさくて言えなかった。
今日一日、手を繋いで、君と。
夢はつまり、思い出の後先。