いつも誰かが




クロ  「忘れ物をしました。それは、今も絶対同じトコに落ちたままで、二度と帰って来ない物。

でもそれは心の中に残る物。いつまでも大切にしたい物・・・。」



シロ  「何だってそんな大切なものを忘れてきたんだい?取りに戻れよ。」



    ここはとあるマンションの廊下。

    マンションの名前は・ニューハイツ山・二匹は座り込んで話をしている。



クロ  「いや、いいんだ。僕から忘れて去って来たんだ。僕がそれを忘れ物にさせたんだから。」

シロ  「ふーん。捨ててやったってヤツか。何だ?女か?」

クロ  「違う。僕にはガールフレンドだって居やしない。」

シロ  「じゃあ、何だってんだ?」

クロ  「・・・・それは僕の主。」

シロ  「は?あるじ?何だそりゃ!?野良の俺には分からない単語だなー、そりゃー。」

クロ  「ああ、分からないならそれでいい。」

シロ  「飼われてんだな、お前。どうだい?人間って奴は?」

クロ  「とてもいい人だった。でも、その人はもう、僕を必要としていない。それが手にとるようにして分かったから、僕は去ってきた。」

シロ  「そうかい。人間なんてのは変な生き物さ。俺等を見ると異様に馴れ馴れしく・チッ、チッ、チッ・なんて舌打ちしながらこっちに寄って来やがる。

そんな事して欲しくもねーから俺はいつも逃げるがな。」


クロ  「言い遅れたけど、僕の主、このマンションに住んでいるんだ。」

シロ  「は?なんだそりゃ?それじゃあお前、忘れ物がどうこう言う前にここから離れたらどうなんだ?これじゃあ単なる・プチ家出・じゃねーか。

自分の家となんら離れちゃいねー。しかも、まさかこの廊下に面した部屋にその主がいるって言うんじゃ・・・」


クロ  「うん・・・ココ。」



    クロは少し背伸びをしてすぐ後ろの戸に手を当てる。



シロ  「え?・・・へ?・・・ココって・・・ここかよぉー!ますます・プチ家出・じゃねーか!

つーか家出でも何でもねー。文字通り、・家を出た・だけだろー!」


クロ  「だって僕、家の中から外に出たの、今日が始めて・・・」

シロ  「マジかよ?!信じられねー!一体何がしたくて出てきたんだよ?」

クロ  「え?僕はただ、忘れ物をしたくて・・・。」



    シロはクロと扉を見比べ、少し考え、言う。



シロ  「それは違うな。どうやらお前は試してみたいだけのようだ。そうだろ?実は。」

クロ  「試す?試すって何を?」

シロ  「主をだよ!本当はまだ迎えに来てくれると心の奥底で思ってるだろ?」

クロ  「お・・・思ってないよー・・・でも・・・思ってるかも・・・。」

シロ  「何が家出だぁー。ほら、そんなこんな事言ってる間に・・・来るぞ。」

クロ  「・・・?来るって何が?」

シロ  「まぁ、俺は去る。お前とはもう二度と会わないだろうな。これが本当の・忘れ物・って言うんだぜ。あばよ!」



    シロは立ち去ろうとする。



  クロ  「ちょ・・・ちょっと待って!最後に聞きたい。どうして君はここに来たの?」

シロ  「俺?俺はここのマンションをいつも放浪の拠点としている。ここは何故かいつもうまい物が落ちてるからな。それを食いに来る。」

クロ  「えっ、それって・・・」



    クロが話し掛けた時後ろのドアが開きかける。



シロ  「来たな。本当に俺は去る。じゃあな。」



    シロは素早く去り見えなくなる。

    クロは一匹取り残される。

    そして、誰にも聞こえない声で独り言を呟く。



クロ  「それって、君もきっと誰かに十分思われてるよ・・・。」



    クロの主が扉の中からやってくる。



主   「こら、クロ、お前危ないから外に出るなって言ったろー?さぁ、家に入ろう。」

クロ  「ニャー。」

主   「可愛いなー、コイツは。」



         主がクロを連れて家の中に入る。

    その様子を見ていたシロがどこからか現れる。



シロ  「やれやれ、大変だな。俺は人間からの愛なんて分からねーな。クロはどうしてあんないい主を・忘れ物・にしたかったんだろう。

ま、息が詰まったのかもな。」





    シロの主が廊下にそっとえさを置き、シロが気づく前にそそくさと去る。



シロ  「おっ、食い物!この時間いつも落ちてるんだよな。ラッキーだな、俺って!おおっ、今日は俺の好物じゃん!

さて、食ってまた旅に出かけるかな。」





    シロは食べ物をくわえ、去って行く。                   

完。






高校時代に面白半分で書いた、演劇の台本(みたいなもの)です。

でも、書いている途中で、「これは猫だし・・・・表現が難しいかなー・・・・。」って理由で自分でボツリ扱いにしました。

何故お題が「オレンジ色の猫」で、この話を載せるに到ったかと言うと、もともとクロは、弱気な黒猫で名前どおり黒い姿のイメージが定着していたので

すが、シロは何故か名前にそぐわないオレンジ色のイメージが定着していたからなんです。

今読み返すと、(本当にこんなの載せてもいいんだろうか!?)と疑いたくなるような出来ですが、思い切って載せます!!

読んで頂いて、ありがとうございます。