蒼く傷つきあるいは傷つけることしか存在しないような 茶に色褪せた牢獄から抜けたその日は 緑のやけに憂愁を帯びた空が広がっていた 白く尖る刃先から滴る透明な血が 紅の床で鮮やかに光るのを見た 黒いティッシュペーパーでその血を拭いて 橙の食器の上に桃と一緒に飾りつけて食べた 灰になる寸前の縹に燃えている蝶が目にとまった 黄のポストが耳元でパタパタと嗤った 紫に艶めいた皮膚で覆われた腕を伸ばした 紺と瑠璃が綯交ぜになり蝶は消えた 銀に世界を靡かせる風にあたり 金が足りるか算段しながら見えぬ蝶を追い続ける 色は狂わない 色だけが確かだ 色が無いのはこの命 ただそれだけ

かかし

形に出来ない卑屈を抱き 立ち尽くすしか脳の無い へのへのもへじのよく似合う あいつは今日も元気だろうか 鳥すら寄り付こうとしない だらしなく垂れ下がった手を 苛立った様に持て余し 頭を下げる稲穂を見下ろし 一本足でふんばるあいつ たった一人で何思う

現想

幻想と話をした 何故幻想と話をするに至ったのか 現実に取り残されて焦った結果だった 孤独に愛されなければ 僕は僕であること等不可能だ 失う事を失うその日まで 現実に引き戻されないよう願った ――――――――――――――――――― 現実と話をした 何故現実と話をするに至ったのか 幻想に食い殺され廃人になる寸前だった 周囲に思われなければ 僕は僕であることすら不可能だ 有る事が有るその日まで 幻想に引き戻されないよう願った ――――――――――――――――――― どちらの空間からも 追い出されない様に行き来しなければ 僕は僕を保つことすら不可能だ

ジレンマ

創作物しか愛せない 創作物は嘘も裏切りも無い 何より死なない 創作した人間に興味は無い 人間は嘘も裏切りも有る そして死ぬ 人が人として輝いている 瞬間を愛せない 人が好きな振りをしても 結局意味はない 喪失を恐れるから けれども それは大きな欠落で 最大の欠点なのだと 自負するより他ない 纏わりつく損失を 独り拭えずに あぁ これからも 生きるしかないのか・・・

待って

もう少し待ってほしい 現実が迎えに来るまで どこまで行っても結局果ててしまう道の 途中で諦めようとしている私の為 温かくなくても 楽しめなくても 独りだとしても 生きるしか出来ない私の為 あと少し待ってほしい どんなに長い夢でさえ結局終わってしまうから 些細な時を大事に思いたい私の為 待ちくたびれたらどうか そっと見放して