お返詩

「本当にこれは詩なの?」 誰か囁いた 迷ったら例え話を始めよう あなたがこれは松ぼっくりだと言った 「これは栗だよ」 第三者から言わせればそれはウニだった あなたがあれは空だと言った 「あれは宇宙だよ」 他から見ればそれは大気圏だった あなた ワタシ 別の人 感性違う 同じ物を見ても 世界は一人に一つずつ 時にそれは松ぼっくりだったり栗だったりウニだったりするのだろう 気まぐれにあれは空であり宇宙であり大気圏だったりするのだろう 誰かが思う限り見る限り信じる限り感じる限り 全ては何にでもなるのだろう 解らなくったっていい 皆にとって確実な物なんて数える程も無い これは松ぼっくりだよね? これはウニだよね? 聞かれたら「ああ、この栗は松ぼっくりともウニとも言うのか。」 あれは空だよね? あれは大気圏だよね? 聞かれたら「ああ、あの宇宙は空とも大気圏とも言うのか。」 人の考え程知らないものを否定など出来る訳が無い 見境を無くしてもいい 常識が何だ非常識が何だ良識が何だ博識が何だ 認識さえあればいい ちなみにこの詩は詩であり手紙でありあなたへの答えでもあり 同時に何より自分へ向けての贈り言葉でもある気がする

雨唄

ポツポツ 独り言を言い出したら パラパラ 頭の中で記憶が捲れ 忘れかけていた出来事をサーッ 思い出す とたん ザザッ 思い押し寄せ 押し流されないよう あわてて傘をさし バタバタしないよう 気を落ち着かせる ボタボタ落ちてゆく すくえない雫を尻目に ズブ濡れの服の裾を握り締め 屋根を探す 再び忘れよう その場しのぎの雨宿り いつしか この降り続く雨 嘘のようにパッ やむ頃は サンサンした笑顔で キラキラ光る涙で 自分を丸出しに出来た時 自信を持って立ち向かい 青空見上げ勇気のひと言 虹のプラタナス潜り抜け 水溜りをピシャリ 踏ん附けて 言い放つ頃

別れ歌

私の中に歌がある 先行く貴方に贈る歌 今宵はこの歌を詠おう 詠い疲れて メロディーを消し去る雨音が静寂を呼んでくれたら 深い眠りに就こう 責めて夢の中でくらい 貴方を見失なわないようにと 乞う様に祈りながら

無音の世界

いつもの道を歩きながら ある音楽を聴いた 目に入って来る風景が まるで変わって見えた 決められた場所に 決められたBGMが 私達の世界には無い それぞれの好きな音楽で 日常を彩れる様に それぞれが好きな音楽で 気分を映せる様に この世界は無音だ

Lentissimo

名も知らぬ美しい曲を聴いた 氷雪が溶ける様な それは冬が終わる瞬間の旋律に似ていた 目覚めて口ずさみ鏡を覗けば 残った涙の筋に気付いた あの眠りの中では笑っていたのに あなたと共に笑っていたのに 今も尚心で反芻し続ける 曲の最後まで譜を置くため 春の訪れを探しにたとう
誰かが言っていました、詩はカンタービレ、歌う様に、歌う風のように、人生もそうであればいい。 一番上の詩、「お返詩」は、今までの詩の中で初めて誰かのために書けたと実感出来た詩です。 書く機会を与えてくれた友人にありがとうを心から送りたいです。 一番下の詩のタイトル、「Lentissimo」は、音楽の速度標語で、「非常に緩やかに遅く」と言う意味があります。 急ぐ必要は、きっと余り無いと思うので。 読んで頂き、ありがとうございました。